朝日新聞の夕刊で『データジャーナリズムの世界』という連載があってからすぐ、この本が書店に並んでいた。膨大なデータを集約し、ストーリーを描き出すの「データジャーナリズム」。「ビッグデータ」は同様の手法でそれを事業に活かす。両者の繋がりを直感して購入する。初版が去年の11月なので、出てから既に半年以上が経過している。おそらく書店員が新聞の連載を意識して店頭に置いたのだと推測。そうであれば、僕はその書店員の期待に応えた1人ということになる。
自分の会社にジョブスのような経営者あるいはスタンフォード大卒の意欲と能力に富んだ社員がいなければ「ビッグデータ」の活用を考えた方がいいと、「はじめに」のはじめに書かれている。じゃあ考えた方がいいんだなと素直に読み進む。すべての顧客の声に耳を傾け、おのずと蓄積されるデータを分析し、得られた知見のフィードバックを個々別々に実施できる、つまり顧客のニーズを見極めることができるのが「ビッグデータ」であるとの説明が続く。
そして、「ビッグデータ」とは、「事業に役立つ知見を導出するための、『高解像』『高頻度生成』『多様』なデータ」(p014)であると定義している。『高解像』は「全体傾向ではなく、個別要素に関するデータであること」、『高頻度生成』は「リアルタイムデータを取り扱うなど、取得・生成頻度が高いデータであること」(時間的解像度が高いこと)、『多様」は「取り扱うデータが非構造なものも含む多様なデータであること」という説明がある(p022)。
具体的な話としては、例えばスマート・イリゲーション(irrigation=潅水)という考え方があって、現状、世界の水の7割は農業に使われていて、その多くが非効率に使われているという問題認識から、天気予報や各種リアルタイム・センサから得られるデータを活用して最適な配水を行う、という「ビッグデータ」の使い方がある。一方、あるシステムに登録する際のプライバシー設定を気をつけないと、自分の性的行動が公開され誰にでも見られてしまうという事態が生ずるという例が挙げられている。これらはわかりやすい長所と短所だが、短所の部分のプライバシー自体も、利用されたらお金が入るような委託販売サービスが、既に世界には生まれているという。
全体的には“入門編”というよりは“現場編”に近い感じで、初心者の僕としてはなかなか理解しづらい面も多々あった。苦労して読み続けていると、最後の方でこう問い掛けられる。「あなたの会社にはどんなビッグデータが死蔵されているだろうか」(p248)。う~む、ビッグデータはすぐに見つからないかもしれないが、ビッグデータに変わる多少のキャリアというものは、ありそうな気がする。新しい概念を知ることが出来たということに加え、新たな発想を与えてくれたという意味で、読み続けた甲斐があったかなと思う。
(日々本 第76回 針谷和昌)
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