知らない言葉がところどころに出てくる。内田樹の文章が知的に感じるひとつのポイントである。例えば「パセティック」、あるいは「囲繞」。調べてみると、パセティックは「哀れを誘うさま、感動的なさま」とあり、「囲繞」(いにょう)は「周りを取り囲むこと」である。学んだ気になる。
知らない言葉だけではなく、知っている言葉でも何故か印象に残る。たとえば「ひしめいていた」という言葉。「この人たちがほんとうに狭い知的サークルにひしめいていたのである」という文章。ここから突然、うちの会社は「才能がひしめく」「熱い気持ちがひしめく」「勇気を持ったメンバーがひしめく」会社にしたいなんて、イメージが広がっていく。
さらに読んでいるうちに、この本もその本も、すぐに読みたい、という気持ちになってくる。
『ラカンはこう読め!』
(スラヴォイ・ジジェク/紀伊國屋書店)
『天使と宇宙船』
(フレドリック・ブラウン/創元SF文庫)「ウァヴェリ地球を征服す」
『明治十年丁丑公論・瘠我慢の説』
(福澤諭吉/講談社学術文庫)
『他者と死者 ラカンによるレヴィナス』
(内田樹/海鳥社)
……読んだあとに、「腹が減ってパスタが茹でたくなった」とか「ビールが飲みたくなった」とか「便通がよくなった」とか「長いことあっていない友だちに手紙が書きたくなった」というのは、出力性の高い書物である。……(「池谷さんの講演を聴く」p80より)
と内田樹は書いているが、まさにこの本は僕にとってまんま“出力性の高い書物”に他ならない。プロのなせる技に脱帽、という感じである。
(日々本 第70回 針谷和昌)
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