『交渉学入門』(田村次朗 一色政彦 隅田浩司/日本経済新聞出版社)
著者のお三方とも近年、大学の教室でお話を聴いたことがある。つい先日も田村先生の「復興リーダーと問題解決力 —交渉学への招待—」というお話を聴いた。この本の冒頭にも書いてあるが、交渉は「場数を踏んでうまくなっていくもの」であると、われわれの多くは考えているし、それが普通の人の考えだと思う。そうではなく、交渉は学んでスキルアップしていくことができるものという発想の「交渉学」という考え方自体が新しい。
例えばいきなり最初に料金や値引額を言われた場合、それ以降、それが基点となって話が進んでいく、なんてことが仕事の上でよくあるけれど、これは「アンカリング」と言われるひとつの交渉のやり方で、それに乗ってはいけなかったり、両者の間をとって金額を決めるなど「落としどころ」を大切にするという考え方は、交渉において「合意」を第一の目的にしてしまっているやり方で、あまり上手くないやり方だったり、交渉に駆け引きは必要でそれを知的なゲームと捉えるべきだという考え方だったり、それでいて勝ち負けを競うものではないという本質的な話だったり、そうなのか、と価値観の変換を迫られる話がたくさん出てくる。
それから幾つかのキーワードが出てくる。忘れないようにそれを書いておこう。
LOI (Lettrr of Intent), MOU (Memorandum of Understanding) : 予備的合意書, 仮合意書
ZOPA (Zone of Possible Agreement):最高目標と最低目標という2つの目標を設定すること
BATNA (Best Alternative to a Negotiated Agreement):合意が成立しなかった時の代替案
Good Cop Bad Cop:相手に敵対的な態度を示す役と同情的な態度を示す役
MECE (Mutually Exclusive & Collectively Exhaustive):もれなく、ダブりなく
Door in the Face:最初に相手が承諾しない厳しい条件を提示して拒否させ、次に少し譲歩した条件を出して合意を求める
Foot in the Face:最初に相手が取るに足らないものだと思う要求を提示し小さなイエスを引き出し、それから徐々にエスカレート
Open Qestion & Closed Question:自由な回答を求めるもの & イエスかノーか、あるいは選択
Nibbling:一旦合意に達した直後を狙って追加条件を出して相手にのませる“おねだり戦術”
大事なのは「目標を達成できるか」ということで、そのために交渉学もある。時は金なり仕事は速く、というのが大切だと考えると、交渉も速く終らせるのが良いと思えてしまうが、どうやらそうではないらしい。それよりも感情的にならないで粘り強く注意深く交渉することが、そして何よりも目標からブレないことが、交渉の秘訣であるようだ。交渉学は新しく、深い。
(日々本 第69回 針谷和昌)
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