『地方の論理 フクシマから考える日本の未来』(佐藤栄佐久+開沼博/青土社)
福島県前知事の佐藤氏と『「フクシマ」論 原子力ムラはなぜ生まれたのか』の著者 開沼氏の本。佐藤氏の知事としての実績と1冊の本で一躍“福島論と言えば”となった開沼氏の評判が、この2人の組合せなら間違いないと思わせる。
福島県の発電量は日本全体の1割、東電の1/4を占めていた。自民党は経団連から支援を受け、民主党は電力総連などの労組から支援を受け、二代政党はともに原発理解者。政治思想において「例外状態」という言葉があり、前例や既存のルールでは対応できない例外の中での対応にこそその時の政治の本性が現れるということを意味する言葉。‘02年12月、福島県は県議会で全国唯一の米国のイラク攻撃反対決議を行った。福島県には自由民権運動が盛んだった歴史がある。原発推進に関してはきれいに労使協調する電力系の労組、その支持を受ける民主党。福島県浜通りの農民詩人・草野比佐男の詩「中央はここ」。自分が生まれてから住んでいた地がいつの間にか地方になり遅れた場所になるが、それは他人に押しつけられたものに過ぎず、中央はここなんだという話。
以前、とある官公庁の仕事をしていたときに、新しく「○○月間」というものができて、その月に象徴的なイベントをやることになった。いつの間にかそのイベントタイトルが「○○月間中央イベント」になっていて、僕はこのネーミングに少なからず違和感を覚えて、関係者の何人かに訊いた。答えは一様に、国がやるから中央イベント、そこから波及して各地でやるかもしれないことを考えての名前、ということだった。このイベントはずっと続いているが、聞く度にいまでもしっくりこない。
ヨーロッパには村が一番厳しい条例を作ることができるところがある。例えばスイスのマッターホルン山嶺のウェルマットは、国がどう決めようが、19世紀からずっと、自分たちはガソリン車は入れないと決めて実行している。裏磐梯の北塩原村はきれいな湖にするために、村の予算30億円のところ100億円かけて全地域に下水設備を整備。環境は未来からの信託、環境は資源、という理念。いま一部の森が中国に買い占められていて、水の問題とも絡んでいる。
中国は水の問題から日本の森を買っているということが書いてあるのだが、ここは水の問題よりも引っかかる部分がある。森を買って私有地として立ち入り禁止にしたら、極端に言えばそこに別の国をつくることができるのではないか?高く買ってくれるからと野放しに土地を売っていたら、気がついたらいつの間にか日本人が入れない広大な土地ができているんじゃないか?それってつまり、国内の外国?大丈夫なんだろうか?
福島県で何かを決めるときは、会津・福島・郡山・いわきのそれぞれの地域で話し合いをして意見をまとめないといけない。経産省は地域の開発計画や振興計画について「この10個のメニューの中から選んで」と言う。「ハインリッヒの法則」…300の「ヒヤリ・ハット」(大惨事になる可能性がある出来事)が起こると必ず29の軽微事故が起き、そして1つの重大事故が起こるという労働災害の経験則。原発の根本的な問題として、忘却することをいかに止めるかという点がある。‘90年代から「21世紀は福島の時代」と佐藤氏は言っていた。自分の頭で考えないということは「楽なこと」。
この2人で語り合う本は、たぶん今回で終らず、これから長い間続いていくのではないか。2人に何人かが加わってくるかもしれないが、それこそ忘却しないために、少なくとも年に1冊は語り合った本を出していってほしいと思う。開沼氏は早くも次の本、今度は福島県南相馬市長へのインタビュー本を出した。『闘う市長』(桜井勝延/聞き手 開沼博/徳間書店)。行くところまで行ってほしい。
(日々本 第57回 針谷和昌)
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