『第五福竜丸から「3.11」後へ 被爆者 大石又七の旅路』(小沢節子/岩波ブックレット)
「ビキニ事件」―1954年、アメリカの水爆実験により漁船第五福竜丸が被曝した。その唯一の証言者・元乗組員の大石又七氏は20歳で被曝した。それから半世紀以上の人生。「大石さんはいつも顔の見える目の前の存在とのつながりのなかで行動してきた。そして、そのつながりから、自らの新しい人生の局面が開けてきたのだった」。広島、長崎、福島と共に名前が出てくるこの漁船の被曝事件について、ようやく少し知ることができた。
第五福竜丸の乗組員は22名だったそうだが、沖縄や台湾、韓国などの船も被曝していて、調べられただけで856隻、1万人を超える乗組員がいたという。結局被害の全容はいまだに不明。この新型水爆が「ブラボー」とネーミングされていて、この爆発のことをブラボー・ショットというそうだ。「ビキニ」「ブラボー」なんて、何かのネーミングで気軽に使ってしまいそうな気がする。知っていた方がいいけれど、すべてを知ることも出来ない。言葉って難しいと思う。
大石氏が自著『真実』に書いた一節が載っている。「加害者のアメリカからわずかな見舞金を受け取り、今後一切アメリカの責任を問わないと言って政府はその年の内に政治決着を結び、すべてを解決済みにしました」。政治決着をしたのは政府である。つまり組織。組織でなく個人の名前が残ることになっても、そういう決着をさせただろうか。
組織になると責任の所在が見えなくなる。人の判断を誤らせるのは、もちろん“金”のケースも多々あるのだろうが、やはり“組織”というのも、人の判断を誤らせるのではないか。ここのところが、ずっとつっかえてるところ。“金”と捉えて解決した筈の疑問が、また蘇ってきた。“組織”とは、それに関わるすべてに人に、“逃げ場”を用意してしまうものではないだろうか?
(日々本 第33回 針谷和昌)
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