僕にとっての好い小説は、読んでいる途中から徐々に勢いを増し、めくるめく世界を巡りながらクライマックスを迎えるような、“疾走感”あふれるお話です。元旦に一気に読了した『あした世界が、』(柴崎竜人/小学館)は、まさにそんな小説でした。
圧倒的な疾走感には、“若さ”が不可欠だと僕は思うのですが、高校生が出て来る小説、例えば金城一紀の『フライ,ダディ,フライ』(角川文庫)を始めとするシリーズが、僕にとってこれまでその筆頭でした。金城一紀は新刊が出たら必ず読む作家の1人ですが、柴崎竜人の作品も今後そうなっていくことになりそうです。
今回、著者が後輩という縁で読んだ訳ですが、たまたまそういうチャンスを与えてもらってラッキーだったと思います。本心から好かったと思わなければ、読後の感想をここには書きません。この読後の幸福感は、すべて純粋に作家と作品の力から生まれたものです。
好い作品は、登場人物をくっきりとイメージしながら読むのだということも、今回実感しました。主人公は表紙の写真の女性、若きロックスターは藤井健太(ことしの本棚100 に登場)、未来のアーティストは友人の眼鏡をかけた工学系大学院生が思い浮かび、彼らが本の中で躍動していました。そのすべての人びとのあしたの世界が、希望に満ちたものであることも、この幸福感をしっかりと支えてくれています。
(日々本 第2回 針谷和昌)
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