ことしの本棚91『象の棲む街』

有り難い。サントリーサンゴリアスのクラブハウスには続々と『気仙沼の高校生に本を』のための書籍が集まって来ていて既に1,000冊を超えている模様。しかもラガーマンはよく本を読むのか並んでいる本を見ると思わず読みたくなるものばかり。思いを巡らせ迷いに迷って最終的には「象」の入ったタイトルと「球」という名前に導かれこの本を持って帰ることにした。速攻で読んで元に戻す。戻してから送る先はもちろん気仙沼。

『象の棲む街』(渡辺球/新潮社)

この本を読む前に20歳過ぎの今年大学を卒業する女の子と話をした。わたしたちは気がついた時から世の中はずっと下り坂でもちろんバブルなんか知らない。だんだん悪くなっていくのが当たり前の世界。だから未来に希望なんて持てない。そういう意見を書いたものとかでなくてまともにこの世代の人間の口から聞いたのは僕にとって初めてだった。

そのことが頭か心の片隅にずっとある中で読むとこの本は8年前に書かれたにもかかわらず作者は彼女と同じことを感じてながら書いたのではないだろうかと思えてくる。近未来の物語は今より更に悪い状態になっている世界。その世界を登場人物のこちら側からそしてあちら側そして向こう側から書いているのである。

未来に希望が持てないという彼女はそれでも結婚して幸せになりたいと言っていた。その幸せも物質的なものではない日常的な幸せの積み重ね。わたしはそれがいい。そう彼女が言っていた。そんな小さなと言っては語弊があるかもしれないがそういう幸せが書かれた物語を僕は次に読みたいと切に思った。そして出会ったのが川上弘美である。(次回に続きます たぶん)

ことしの本棚 第91回 針谷和昌)

hariya  2011年12月16日|ブログ