『考えの整頓』(佐藤雅彦/暮しの手帖社)
佐藤さん(まだ一度も会ったことがないけれど、そう呼びたくなる人)は、3.11について何をどう書いているんだろう?そう思って探した。この本に収められている27篇の文章は、雑誌『暮しの手帖』に今年の5月まで約4年半、連載した「考えの整とん」に多少の筆を加えたものだそうで(連載はまだ続いているそうです)、後ろの方かなぁと頁をめくっていくと、いちばん最後にあった。
それを読んでから(佐藤さんは3.11を築地で体験したそうだ)、最初に戻ってふつうに読み始めると、まず最初のお話が最も僕自身の琴線に触れるものだったようで、電車の中にかかわらず読んでいてこみ上げてくるものがあった。
その話は、中学生たちと担任の先生が保護者参観日に行ったある「たくらみ」についてなのだが、いろんな個性がある中で、生徒も先生も一緒にひとつのことを共同でやって、さらにその場が最高の盛り上がりを見せたというところが、僕のどこかに触れたように思う。
この話以外に涙が出てくるものはなかったが、どの話も月並みな言葉でだけれど“心温まる”お話。僕は小説をあまり読まないが、どんな小説よりも面白い小説を読んでいるようにも感じた。今年も残すところあと1ヶ月半だけれど、いまのところ僕の“今年のベスト”に最も近い本となった。
(ことしの本棚 第82回 針谷和昌)
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