『地雷を踏む勇気 人生のとるにたらない警句』(小田嶋隆/技術評論社)には、“とるにたらない”どころでない、人を驚かす記述がある。
それは最初に出て来る「隠しきれなくなった核抑止力」という章にあって、読売新聞(9/7付)の社説で、日本が原子力発電のために持っているプルトニウムは、核兵器の原料になり得て、それが核抑止力として機能しているという事実、という話。
つまり、原発には単にエネルギーの問題だけでなく、軍事的、政治的な問題も含まれていて、それを含めた上で今後どうして行くかを考えねばならないということ。著者自身は、これまで裏ではそう言われていてもそういうことを表に出して新聞が書く、ということが驚きであり、それは震災前にはなかったことだと書いている。
続けて読んだ『有事対応コミュニケーション力』(岩田健太郎・上杉隆・内田樹・藏本一也・鷲田清一/技術評論社)にも、ちょっと驚かされた(今書いていて気がついたけれど、偶然にもどちらも技術評論社という出版社から出た本)。こちらは6月に行われたシンポジウムの再現なのだが、上杉氏の発言の中に、こういう部分があった。
「(前略)今回の放射能による海洋汚染では、環太平洋で20ヶ国が4年かけてプランを出すと言っていますが、全世界から損害賠償で訴えられるわけです。それはおそらく数十兆じゃきかないんですね。フランスの機関がもうすでに算出しましたけれど、約500~600兆円になるんじゃないかと見られています。(後略)」
これには、驚きはもちろんのこと、そんなことにも今まで気がつかないでいたのかという自分の鈍さと共に、ある種の絶望感を感じた。
未来はあまり明るく輝くものではないということを、はっきりと示された気がする2冊。しばらくして、開き直るしかない、という考えが頭の中をよぎる。それは決して力強くもなく、かと言って弱くもなく、興奮もせず、だからと言って冷めてもなくて、淡々とした心の状況から生まれた考え。僕自身これまで“開き直る”ことをあまりしてこなかったと思うので、ちょっと楽しみではあるが。
(ことしの本棚 第81回 針谷和昌)
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