『原発労働記』(堀江邦夫/講談社文庫)
安全性がうたわれる原発と、どうやらそのようではない噂との間で、原発と「直接話法」を行うことによって真実を知ろうと思い立ったこの記録作家が、まさに自分の身を通じて原発の安全性に迫った記録。1978年から美浜、福島第一、敦賀の3ヵ所で働いた記録は、原発労働の実態を、自分だったらそんな仕事は絶対にやりたくない、という思いにさせられるリアルなノンフィクションである。
少なくとも閉所恐怖症や潔癖性の人には出来ない仕事であるという実例が、これでもかと出て来るのに加えて、ところどころに客観的に状況を評価する記述があって、それがオーバーにではなく抑え気味に書かれているので、より効果的に感じる。
実際に浴びた放射線量が計画線量をオーバーしそうになると、その労働者を作業からはずすのではなく、計画線量自体を上げてしまう。洗濯廃液で放射能の少ないものは海へ排出されるが、放射能の安全性はチェックするけれど大量の合成洗剤の毒性はチェックされない。多重防護されているという電力会社の放射線管理安全対策の実態は杜撰。無災害◎万時間達成とあっても災害が発生しなかったのではなく災害が公にならずに済んだことなのではないか。福島の地元紙に 東京電力社員/休日は乗馬に熱中/手綱さばきも鮮やか という見出しと写真入り3段記事が載るところに電力会社に対する県民の意識が現れている。
こんなところが印象的だが、最も印象深かったのは、東日本大震災1ヵ月後に書かれたあとがきである(この本は最初79年に現代書館から出て、84年に講談社文庫から出たものを、27年振りに加筆修正して今年5月に復刊した本)。
作者はその後、死の淵を二度にわたって彷徨、太い人工血管を全身に埋め込まれ、様々な後遺症に次々に教われ、いまはリハビリ難民となっているそうだ。敦賀の1ヵ月で682、敦賀の前と合わせると924ミリレムを被曝した作者の30余年後の現状である。
(ことしの本棚 第58回 針谷和昌)
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