「被災地の高校生に本を」という主旨に賛同してくれた友人たちの本を携え、上野駅から福島県いわき市へ向かう。その車中、届ける本の中からこの本を取りだして、新しい本の状態を保つために折り目をつけたり汚したりしないということに細心の注意を払いながらも、一気に読む。ちょっと盗み読みのような気分だった。
『アルケミスト—夢を旅した少年』(パウロ・コエーリョ/山川紘矢,山川亜希子 訳/角川文庫)
もともと本屋で見掛けたことを覚えていた本であり、とくに表紙のイラストが気になっていた。イラストレーターは平尾香。後から知ったけれど、コエーリョの角川文庫の表紙はすべてこの方のイラストである。
そして読む前に確認した著者のプロフィールから、書いたのは元ミュージシャンのブラジル人で、リオ・デ・ジャネイロ生まれであることがわかる。僕はリオ・デ・ジャネイロには4回訪れたことがあるし、3年前ぐらいに突如思い立って習ったのはコパカバーナ生まれのボサノヴァのギターである。
そんな思い込みを持って読んだ本だが、表紙のイメージ通りのとても優しい物語だということだけ覚えていて、詳しい内容を思い出せない。きっとその後の出来事が、とても印象的だったからだと思う。
その日はいわき市へ着き、2カ所の避難所を訪れ、最初に行った避難所では責任者に避難所をぐるっと案内してもらった。2番目に行った先では、避難所の中でちょっとした体操教室を行った。そのすべてがまだ鮮明に脳裏に焼き付いていて、その代わり、往路での読書の内容は、ほとんど忘れてしまったのである。
本は他の数冊と共に、避難所の責任者にお渡ししてきた。だから、今回の本は、僕の本棚には入っていない。
(ことしの本棚 第52回 針谷和昌)
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