ことしの本棚50『いのちと放射能』

銀座四丁目にある教文館という本屋に行くと、大抵数冊買ってしまう。本を面白そうに見せ本を買う気にさせる本屋のひとつである。今回は2冊の文庫をレジへ。緑系と茶系の2種類のブックカバーがあって「どちらにしますか?」と、いつもと同じように訊かれる。「両方の色をお願いします」と答えて、どっちの本が何色になるのか?本屋さんのセンスを試してみた。センスというよりも僕との相性。
 
本屋さんは僕が考えていた通り、緑のカバーは『いのちと放射線』(柳澤桂子/ちくま文庫)に、そして茶のカバーは『三陸海岸大津波』(吉村昭/文春文庫)に被せてくれた。意図的に選んだか偶然だかわからないけれど、この相性はいい感じだ。
 

 
この日、持って出て読んでいる途中だったのが『チェルノブイリの森 事故後20年の自然史』(メアリー・マイシオ/中尾ゆかり 訳/NHK出版)。この本を読み終え、さらに『いのちと放射線』も一気に読んだ。
 

 
『チェルノブイリの森』は原子力発電の仕組みや放射能とは何かから始まって、事故が起こった時の状況からその後の経過が丁寧に書かれている。植物が生い茂り、たくさんの動物が動き回っているのが、現状のチェルノブイリ。ただし松などの植物には畸形もあり、動物でそれが見られないのは、畸形は長く生きられないからだという。また放射能を浴びたあるいは体内に取り込んだものの食物連鎖は、連鎖が重なれば重なるほど放射能は濃縮されるという。
 
放射能に汚染された地域であるとの看板は、放射能がなくなるまでその形を維持出来ない、それほどの年月がかかるという問題も書かれている。今の日本ではまだあまりイメージ出来ないが、確かに20年後にはそういう問題も出てくる可能性はある。そういう問題が出てくるくらい、状態が落ち着いてくれていればいいけれど、というのが今の日本の現状ではある。
 
『いのちと放射能』も生命科学研究者が懇切丁寧に放射能を解説している。さらに宇宙的視野を持つ必要性を熱く語る。地球ができてからの45億年を1週間とすれば、われわれはたった3分の歴史しか持っていず、そのわれわれが45億年かけて造られたものを壊そうとしていることに警告を発し、また自らにも責任があるということだ。
 
放射線はDNAに傷をつけたり切断したりして突然変異を引き起こす。それが癌や奇形児を生み出す。放射能の本当の恐ろしさは突然変異の蓄積にあるという。チェルノブイリの事故処理に携わった作業員86万人のうち5万5千人以上が亡くなり、この事故で健康を害した人はロシアで145万人、ロシア、ウクライナ、ベラルーシの健康被害者合計は700万人いる。子供たちの白血病と甲状腺渉外は悲惨な状況で、事故後に生まれた18歳以下の子供たちの中で体内被爆により健康を害しているのは22万6千人、被害は年を経るにつれて大きくなっていくだろうとのこと。日本でも六ヶ所村の再処理工場からの空と海への放射線の放出が過去になされている事実が書かれている。
 
いま、頭の片隅に必ずあり、関連文献を読み続けているこの「放射能」とは?そして「放射線」とは?これだけの本を読んでもまだよくわからない。目に見えず匂いもせず音も出さず味もせず普通は肌でも感じられないこの「放射線」とは何なのか?それを理解するための読書は続く。
 

(ことしの本棚 第50回 針谷和昌)http://booklog.jp/users/hariya

hariya  2011年5月26日|ブログ